運用型広告でクリエイティブの
本数が必要な理由と増やし方
運用型で動画を回していると、必ずこれが起きます。最初の2週間は好調だったのに、3週目からCPAが跳ね上がる。動画は何も変えていないのに、です。
現場ではよく「ユーザーに飽きられた」と説明されます。半分正しいのですが、この説明のままだと打ち手を間違えます。実際に起きているのは、飽きではなく弾切れだからです。
なお、先にお断りしておくと、neko punch株式会社(ネコパンチ)は広告運用の代行会社ではなく、クリエイティブの制作会社です。 この記事で扱うのは、なぜ本数が必要なのか、そしてどう本数を増やすべきなのかという、制作供給の側から見た構造の話です。 実際の配信設計は運用担当の方の領域であり、私たちが制作する際も、運用側の戦略に合わせて供給する立場です。
効かなくなる本当の理由
いまの配信アルゴリズムは優秀です。動画を入稿すると、それに反応しやすい人を自動で見つけ出し、集中的に届けてくれます。
ただし、反応してくれる人の数には限りがあります。
アルゴリズムが優秀であるほど、その人たちを見つけ尽くすのも速い。見つけ尽くしたあとは、同じ人に繰り返し表示するしかなくなります。 フリークエンシー(同じ人への表示回数)だけが上がり、新しい人に届かなくなり、結果としてCPAが悪化する。
つまり、動画の中身が古くなったのではありません。その動画で届く相手を、使い切ったのです。
これが分かると、対策も変わります。必要なのは「もっと良い1本」ではなく、別の相手に届く次の1本です。
ちなみに、この状態になってから入札やターゲティング設定をいじっても戻りません。 届く相手が尽きたことが原因なので、設定では解決できないからです。手を入れられる場所は、クリエイティブしかありません。
動画は静止画より寿命が短い
同じことは静止画バナーでも起きますが、動画のほうが明らかに速く進みます。
理由は、動画はスキップされるからです。静止画は興味がなければ視界を素通りするだけですが、動画は冒頭の数秒で「見る/飛ばす」がはっきり分かれます。 反応の差がはっきり出るほど、アルゴリズムの絞り込みは速く進む。縦型動画が数週間で入れ替えを必要とするのは、このためです。
そしてもうひとつ。予算が大きいほど、使い切るのも速くなります。 日予算が大きい案件ほど新しい動画の供給が追いつかなくなるのは、担当者の怠慢ではなく構造の問題です。
増やし方には2種類ある
では、どう増やせばいいのか。方向は2つです。
1つめは、訴求を変える(WHAT TO SAY)。
価格で訴えるか、時短で訴えるか、不安の解消で訴えるか。言うことを変えれば、反応する人が変わります。これが最も根本的な打ち手です。
ただし、新しい訴求を見つけるにはユーザーの理解が要ります。何に困っていて、何を言われたら動くのか。 ここは調査と仮説の仕事です。AIは壁打ちの相手として十分に使えますが、仮説の精度は人間の洞察と経験に大きく左右されます。 丸ごとAI任せにすると、もっともらしいだけで誰にも刺さらない訴求が量産されます。
なお、訴求を変えるということは狙う相手を変えるということなので、配信側でも学習を分ける(キャンペーンや広告セットを分ける)前提で設計したほうがよい、というのが私の見立てです。
2つめは、表現を変える(HOW TO SAY)。
同じ訴求でも、実写風で語るのかアニメで見せるのか、冒頭をどう入るのかで、反応する人は変わります。 アルゴリズムはメッセージだけでなく、映像の見た目やテンポも学習しているからです。
そして、ここが生成AIの主戦場です。同じ訴求を10通りの表現で作り直すことは、撮影を伴う従来の制作では費用も期間も現実的ではありませんでした。 生成AIはこの制約を外します。
派生は必要。ただし上限がある
尺違い・サイズ違い・冒頭差し替えといった「派生」は、上の2つとは役割が異なります。 新しい相手に届けるためではなく、すでに届いている相手を取りこぼさないためのものです。
サイズを揃えなければ配信できない場所があります(たとえばMetaなら、フィード・ストーリーズ・リールでそれぞれ適した縦横比が違います)。 尺のバリエーションがなければ、配信の選択肢も狭まります。当たった訴求を派生で展開するのは必須の作業です。
ただし、派生は多いほど良いわけではありません。上限を決めるのは予算です。
派生を増やすほど、同じ予算がその本数に分散します。1本あたりの表示量が薄くなると、アルゴリズムはどの動画についても「誰に効くのか」を学習しきれません。 本数を増やした結果、全部が中途半端に終わる。低予算で派生を積むほど、この状態に近づきます。
だから順序はこうなります。派生は、配信する場所と尺をカバーできる最小限から始める。 1つのシナリオから20本、30本と派生を作るのは、それを回しきれる予算がある場合だけです。 その予算がないなら、派生ではなく新しい訴求・新しい表現、つまり起点を増やすことに投資したほうが成果につながります。
発注前に決めておく5つのこと
大量制作を検討するとき、最初に決めるのは本数ではありません。
- 訴求軸がいくつあるか。3軸しかなければ、100本作っても届く相手は3グループ分です
- 表現の振り幅をどこまで許容するか。ブランドレギュレーションが厳しいほど、表現で増やせる幅は狭まります
- 予算に対して本数が多すぎないか。1本あたりの表示量が薄くなると、かえって全体の学習が進みません
- 入れ替えの運用が回るか。作っても、入稿と評価が追いつかなければ意味がありません
- AI制作をどこまで許容するか。商材や業種によって、社内・媒体審査・生活者の受け止めは異なります
この5つが決まれば、必要な本数は逆算で出ます。
まとめ
- 動画広告が効かなくなるのは、飽きられたからではなく、届く相手を使い切ったから
- 設定では解決できない。打ち手はクリエイティブの供給だけ
- 増やす方向は2つ。訴求を変える(人間の洞察が主導)と、表現を変える(AIの得意領域)
- 派生は「取りこぼし防止」の役割。本数の上限は予算が決める。回しきれないなら、起点を増やす側に投資する
クリエイティブの供給量と設計が、運用型広告の成果の上限を決めます。制作の物量は、そのための手段です。
筆者について
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